なの魂(旧版)

件の不思議生物を動物病院へ運び込んで早十数分。
心配そうに待合室で座っていたなのは達だったが、院長がフェレットっぽい生き物を腕に抱いて
治療室から出てきたのを見て、ようやく安堵の表情を見せた。
胴体に包帯をぐるぐる巻きにされているが、それ以外には目立った外傷は無いようだ。

「怪我はそんなに酷くないけど……随分と衰弱してるみたいねぇ。
 きっと……ずっと一人ぼっちだったんじゃないかなぁ」

「……先生、これってフェレットですよね?
 どこかのペットなんでしょうか?」

院長からフェレットを抱き取りながらアリサが聞く。

「フェレット、なのかな? 変わった種類だけど……。
 それに、この首輪についてるのは……宝石、なのかな?」

まるでルビーのような情熱的な赤い色をした宝石。
普通の人間なら、その美しさに目を奪われてしまうだろう。
しかし、銀時は何故かその宝石を見て渋面をあらわにした。

「…………」

「? どうしたんですか、銀さん?」

「いや……なんでもねぇよ」

否。
銀時はこの宝石――正確には、宝石に類する物に見覚えがあった。
彼がまだ、戦場を駆る兵士だった時の事だ。

(……ったく。物騒なモン持ち込みやがって……どこの天人だ?)

このまま放っておくべきか。
それとも、何か理由をつけて持ち帰り、破壊しておくべきだろうか。
そのような思案をめぐらせていると、先程まで眠っていたフェレットが突如顔を上げた。

「あ……起きた!」

「………」

「……?」

フェレットはしばらく辺りを見回した後、ある一点をじっと見始める。

「なのは、見られてる」

「え、あの……うん。
 えっと……えっと……」

熱烈な視線を送られて困惑するなのはだったが、フェレットの方はというと
すぐに興味を無くしてしまったのか、はたまた疲れがたまっていたのか、再び深い眠りについてしまった。

「しばらく安静にしたほうが良さそうだから……とりあえず、明日まで預かっておこうか?」

「はい、お願いします!」

「良かったら、明日また様子を見に来てくれるかな?」

「わかりました!」

こうして、その場はお開きとなり……
タイミングを失った銀時は、結局宝石を回収することは出来なかった。



なの魂 〜第二幕 魔法少女始めましたって冷やし中華みたいに言うな〜



そしてなんやかんやで夜。
あの後、フェレットについてどうするか話し合ったのだが……
アリサ――犬を飼ってるのでダメ。
すずか――猫を飼ってるのでダメ。
銀時――フェレット飼う余裕があるなら家賃払え。という理由でダメ。
というわけで、一度家に帰ったなのはが、自分の家で引き取れないかと家族に相談したところ
意外にも快く承諾をもらえてしまった。
飲食店経営の家でペットの飼育をしてもいいのか? という疑問が来そうだが
店舗のすぐ上で巨大犬を飼っている一家がいるので全く問題は無い。

『アリサちゃん、すずかちゃん。あの子はうちで預かれることになりました。明日、学校帰りにいっしょに迎えに行こうね。
 なのは』

布団の中にもぐりこんで、その旨をメールで二人に伝える。
その時だ。

(……聞こえますか! 僕の声が、聞こえますか!)

突然耳鳴りのような物がしたかと思うと、なのはは得体の知れない圧迫感に駆られた。
そして聞こえてくるあの声。
昼間、公園裏の林道で聞いたあの声だ。
いや、聞こえる。というのとは少し違う。
頭の奥底に、直接響いてくる……そんな感じだ。

(聞いてください! 僕の声が聞こえるあなた!
 お願いです! 僕に少しだけ、力を貸してください!)

「あの子が、喋ってるの……?」

切迫した声。
なのはは漠然と、あのフェレットのことを思い浮かべる。
そうだ。昼間のあの時……助けを求めるあの声が聞こえた時、すぐ近くにはボロボロになった、あのフェレットがいた。
もしかしたら、この声は本当にあの子のものなのかもしれない。

(お願い! 僕のところへ!
 時間が! 危険が! もう!)

その言葉を最後に、それっきり声は聞こえなくなった。



同時刻。

「……しまったァ。今日ジャンプの発売日だった。完全に忘れてた。
 今から買いに行くか」

一日の仕事を終え、自宅の居間兼事務室でくつろいでいた銀時が、突然そう呟いた。
ホームヘルパーといっても、住み込みではなくほとんどパートタイマーのようなものだ。
朝早くからはやての家へ向かい、日が沈んだ頃に自宅へ戻ってくる。
勤務形態はそんな感じなのだ。

「いや、もういいじゃないですか。もうこんな時間ですよ?」

のんびり茶を啜っていた新八が言う。
普段は自宅に帰っている新八だが、今日は時間が遅いということもあり、銀時の家へ泊まるらしい。

「まァこれもジャンプ卒業するいい機会かもしれねェ。いい歳こいて少年ジャンプってお前……。
 いや、でも男は死ぬまで少年だしな……」

などと恥ずかしい葛藤を始める銀時。
そういうことは心の中だけで行ってもらいたいものだ。

「うるっせーんだヨ! 少し静かにしてるネ! 男ならグダグダ言わず、
 ジャンプでもマガジンでも買ってきやがれってんだヨ!」

今まで大人しくテレビを見ていた神楽が怒鳴る。
どうやら銀時のウジウジした態度が気に入らなかったようだ。
さすがにこの物言いには銀時も怒った。
怒ったのだが……何故か、二、三悪態をつくだけに留まり、すぐに家を出て行ってしまった。
いつもの彼なら、こうも大人しく引き下がることは無いはずだ。
近所迷惑千万な、子供のような口喧嘩が始まっていてもおかしくない。
そのことを疑問に思った新八は首を傾げたのだが、まあいつもの気まぐれだろう、と彼は思い直した。
それよりも、今の会話で思い出したことがあったのだ。

「あ、ジャンプって言えば、明日古紙の日じゃん。今のうちに出しておかないと……」

そう言って新八は事務デスクの方へ目を向ける。

デスクの脇に積み重ねられた少年ジャンプ。
――その一番上には、今週号のジャンプが置かれていた。



月明かりと僅かばかりの街灯に照らされた路地を、なのはは走っていた。
あの声が途絶えた直後、妙な胸騒ぎがし、いてもたってもいられなくなったので
こっそり家から抜け出してきたのだ。
息を切らしながら向かうのは、昼間立ち寄った動物病院。
あの声が、本当にあのフェレットのものならば。
あの言葉が、もし本当なら……。
再びなのはを胸騒ぎが襲う。
――急がないと!

ようやく病院の入り口の前までやってきた。
……まさにその瞬間だった。

「な、何!?」

ガラスの割れる音と、コンクリートの砕ける音。
同時に病院から土煙が上がる。
塀が邪魔になって見えないが、中では常軌を逸したことが起こっているだろうということは想像に難しくない。
呆然と煙を見上げるなのは。
その視線の先に、何かが跳び上がった。

「あれって……」

フェレット。
そう、この病院で預かってもらっていた、あのフェレットだ。
突然かつ予想外な出来事に困惑するなのはだが、なんとかフェレットを受け止めることに成功する。

「な、何々!? 一体何!?」

「来て……くれたの?」

――声が"聞こえた"。
今までのように頭の中に直接響いてくるのではなく、確かに耳を通って聞こえてきた。
しかし、周りには人影らしき物は無い。
ということは……。

「喋った!?」

そうとしか考えられない。
目の前のフェレットが喋ったのだ。
様々な次元世界の人間が闊歩するこの江戸。
犬や猫のような耳や尻尾が生えた人間なら――極々稀にだが見かけることはある。
しかし喋るフェレットなど、生まれてこのかた見たことが無い。
理解不能の出来事に、すっかり混乱してしまうなのは。
だがこの直後、さらに理解不能なことが起こる。

フェレットを追うようにして、煙の中から何かが跳びあがった。
毛むくじゃらで、巨大な丸い体。頭から伸びる二本の触角のようなもの。そして、不気味に輝く目。
月明かりに照らされたその姿は、およそこの世の生物とは思えない物だった。
その生物はなのは――いや、フェレットに一瞬目をやり、凄まじい勢いで落下を始めた。

「え!? え?! えぇぇぇ!!?」

驚きのあまり腰を抜かすなのは。
しかし謎の生物は容赦なく襲い掛かる。
まさに絶体絶命かと思われた……その時だ。

「ったく。手間かけさせんじゃねーよ!」

月夜には似付かわしくないエンジンの爆音。
そして怒鳴り声。

「わたあァァァァァ!!!」

声の主はドップラー効果を効かせながら高速でこちらへ接近。
そして巨大生物を木刀で"殴り飛ばした"。
疾風の如き一撃を受け、巨大生物は吹き飛ぶ。

「ぎ、銀さん!!?」

「乗れ! 早くしろ!!」

ドリフト気味にブレーキをかけ、なのはの前にスクーターを急停車させる銀時。
相変わらず死んだ魚のような濁った目をしているが……ほんの僅かにだが、その目には光が灯っているように見えた。



「そ、その! 何が何だか良くわからないけど……一体何なの!? 何が起きてるの!?
 というか銀さん、なんでこんなところに!?」

あまりのスピードに振り落とされそうになりながらも、座席後部で必死に踏ん張るなのは。
彼女がそのような疑問を抱くのは、至極当然のことだった。
何故彼が夜の動物病院に?
一体何の用で?

「……少し引っかかることがあってな。ソイツの様子見に来た」

なのはが抱えているフェレットに目配せをする銀時。

「つーか、お前こそなんであんなトコにいたんだよ」

今度は銀時が質問を投げかける。
確かに、良い子はもう寝る時間だ。
というか、高町家は門限には厳しい。こんな時間の外出を許すわけが無い。
基本的に良い子のなのはが、こんな時間に外を出歩いていたのには何か訳があるのだろう。

「そ、それは、その……なんだか、この子に呼ばれたような気がして…」

「…………」

不安げにフェレットを見下ろすなのは。
銀時は暫く押し黙った後、ぽつりと呟く。

「……ったく。メンドーなことになりそーだぜ」

「! 銀さん! 後ろ!」

突然なのはが叫ぶ。
先程振り切ったと思われた巨大生物が、空から襲い掛かろうとしていたのだ。

「チッ!」

急ブレーキをかけ、寸でのところで強襲を避わす。

「なのは! オメーはさっさと逃げろ!」

原付を降り、巨大生物と対峙する銀時。
なのははすぐその場から離れるものの、遠くへは行こうとせず
すぐ側の曲がり角から銀時達の様子を窺っていた。

巨大生物が銀時へ向けて触角を伸ばす。
銀時はそれを屈んで回避し、地を蹴った。
瞬きをする暇も無い。とはまさにこのことか。
文字通り"一瞬"で敵の懐へ潜り込む。
だが、敵もそう易々と勝負を決めさせてはくれないようだ。
もう一本の触角を木刀に絡めつける。
武器を取られまいと抵抗する銀時だが、その予想外のパワーに木刀諸共投げられてしまった。
だが、持ち前の身体能力を活かし、何とか受身を取る。

「銀さん!」

一瞬の、速過ぎる攻防に目を奪われるなのは。
普段の彼からは想像も出来ない動きだ。
だが、その光景を目の当たりにして彼女以上の驚きを覚えたものがいた。
他でもない、あのフェレットである。

(速い……! あれが…あの人自身の身体能力だっていうの…!?)

信じがたい光景に目を疑う。
これが噂に聞く"サムライ"というものなのか?
漠然とそんなことを思う。
しかし……。

(……駄目だ。あの人がいくら強くても、あれを止めるには…!)

そうだ。
あの忌まわしき力を止めるのは……ただの人間では無理だ。
フェレットは少しの間逡巡し……そして、なのはの方を向いた。

「……君には資質がある。僕に少しだけ力を貸して!」

「資質……?」

「僕はある探し物の為に、別の世界から来ました。でも、僕一人の力では想いを遂げられないかもしれない。
 だから! 迷惑だとは判ってはいるのですが、資質を持った人に協力して欲しくて……。
 お礼はします! 必ずします! 僕の持っている力を、あなたに使ってほしいんです!
 僕の力を……魔法の力を!」

「ま、魔法…!?」

なのはは目を丸くした。
いや、魔法という言葉は知っている。
この世界にも多少なり、魔法を利用した技術はあるからだ。
むしろ問題なのは――そのような力を、自分が使うことが出来るのか? ということである。
何しろ、今までそんな幻想的なものとはほとんど無縁の生活を送ってきた身だ。
資質があるから大丈夫などといわれて、分かりましたと即答できるはずも無い。
しかし迷っている時間は無かった。

「ぐぉ……っ!?」

突然、すぐ脇の塀が砕けた。
巨大生物に吹き飛ばされた銀時が激突したのだ。

「!? 銀さん!!」

「へっ……おかげで気合入った……ぜ…っ!?」

左腕に違和感を感じる。
塀の破片が食い込み、おびただしい量の血が流れ出ていた。

「……オイオイ、こいつァ、ちょっとヤベぇんじゃねぇの…?」

「っ! …どうすれば……どうすればいいの!?」

意を決するなのは。
元々正義感の強い子だ。
目の前で、自分のために他人に血を流されるのは耐えられなかったのだろう。

「これを!」

フェレットが掲げたのは、あの赤い宝石。
なのははそれを受け取る。

「それを手に、目を閉じて、心を澄まして。僕の言った通りに繰り返して。
 ……いい、いくよ!」

「……うん!」


――我、使命を受けし者なり
――契約の元、その力を解き放て
――風は空に、星は天に
――そして、不屈の心は
――この胸に


「この手に魔法を!
 レイジングハート! セーットアップ!」

直後、赤い宝石――レイジングハートから光が放たれた。
溢れんばかりの淡い光はなのはを包み込み、雲をも切り裂く光の柱となった。

「なんて魔力だ…!」

「……マジかよ、オイ」

その光景を唖然と見る銀時。
まさか、こんな身近に"魔導師"の資質を持った者がいたとは…!

「……成功だ!」

やがて光の奔流は収まり、中から一人の人影が現れる。
白い魔導法衣。大きな赤いリボン。そして手には魔法の杖――レイジングハート。
魔法少女高町なのは誕生の瞬間である。

「! ふえ!? ふえ!? ウソぉ!?
 な、何なの、コレぇ……」

予想の斜め上をぶっ飛んだ展開に、一番驚いたのは当事者だった。
何かのドッキリ?
否、これは現実である。
彼女に内包される膨大な魔力を感じ取ったのだろうか。
先の巨大生物は目標を銀時からなのはへと変え、襲い掛かってきた。
一瞬反応の遅れた銀時の脇を駆け抜ける。

「ヤベッ……!」

「来ます!」

「きゃっ!?」

思わず目を瞑り、身構えるなのは。
……しかし、暫くたっても来るはずの衝撃は来ない。
恐る恐る目を開ける。

巨大生物は障壁のような物に行く手を阻まれており、
突然衝撃波のような物を受け、四散した。

「え……えぇ!?」

「僕らの魔法は、発動体に組み込んだプログラムと呼ばれる方式です。
 そして、その方式を発動させる為に必要なのは術者の精神エネルギーです。
 そしてアレは、忌まわしい力の元に産み出されてしまった思念体。
 あれを停止させるには、その杖で封印して元の姿に戻さないといけないんです」

「え? じゃあ何? 俺がやってたことって無意味だったわけ?」

左腕を押さえながらフェレットに詰め寄る銀時。
エラく不機嫌そうである。

「え……それは、まあ……極論から言うと、そうなりますが…」

「オイ冗談じゃねーぞ! こっちは怪我までしてんだぞ!?
 もうちょっとでシャンクスになるトコだったんだぞオイ!?」

首根っこを掴んでブンブン振り回す。
シャンクスって誰? などという野暮なツッコミはこの際しないでおこう。

「おおおお、落ち着いてください! だだ、大丈夫です! 一応弱らせることには成功してますから!!」

「良くわかんないけど……どうすれば?」

「さ…さっきみたいに、攻撃や防御等の基本魔法は心に願うだけで発動します。
 ですが…より大きな力を必要とする魔法には、呪文が必要なんです」

脳みそを程よくシェイクされたフェレットが、頭を抱えながら答える。

「呪文……?」

「心を澄ませて……。
 心の中に、あなたの呪文が浮かぶはずです」

心を澄ませる。
そう、それすなわち明鏡止水の心である。
なのはは目を瞑り、全神経を集中させる。
しかしあまり時間は無い。
四散した巨大生物が再生し、なのはへ二本の触角を伸ばしてきたのだ。

「チッ、野暮なことはするもんじゃねーぞ、黒マリモが!」

間に割って入る銀時。
巨大生物は目の前の障害を排除すべく、木刀に触角を絡めつける。
先程と同じく、武器を奪い無力化するつもりだ。
しかし、聖闘士…いや、侍に同じ手は二度も通用しない。

「しっつこいヤローだ……そんなに幼女が好きかァァァァァ!!!」

叫び、木刀を自分の真後ろへ振り下ろす。
凄まじい力で引き寄せられたマリモの体は宙を舞い、地面に叩きつけられる。
背負い投げ、というよりはむしろ一本釣りといったイメージだ。

「今です! 封印の呪文を!」

――見えた、水の一滴。
なのはは呪文を唱える。

「リリカル! マジカル!」

「封印すべきは忌まわしき器、ジュエルシード!」

「ジュエルシード、封印!」

『Sealing Mode. Set up.
 Stand by ready.』

レイジングハートから光の羽のような物が展開する。
そしてその羽は無数の光の帯となり、巨大生物の動きを封じ込める。

「リリカルマジカル……ジュエルシードシリアルXXI……封印!」

『Sealing.』

直後、辺りは眩い光に包まれ……
光が収まった後、そこにはあの生物の姿は無かった。

「……やったのか?」

「ええ……成功です…!」

安堵の息を漏らすフェレット。
その時、彼らの目の前で何かが小さく輝いた。

「……あ」

宝石。
蒼く輝く、小さな宝石だった。

「これが、ジュエルシードです。
 レイジングハートで触れて」

言われるままに、レイジングハートをかざす。
不思議なことに、ジュエルシードは独りでに浮かび上がり……
レイジングハートに吸い込まれるようにして消えた。

『Receipt No.XXI』

「あ、あれ……終わったの……?」

「はい。あなた達のおかげで……ありがとう」

再び安堵の息を漏らすフェレット。
しかしこれで終わりではない。
……パトカーのサイレンの音。
辺りを気まずい空気が包み込む。
目の前にはへし折れた電柱、割れた道路、砕けた塀。
このままこの場に留まれば、真っ先に疑われるのは自分達だろう。
というか、実際四割くらいは自分達がしたことだ。

「……チッ。厄介な奴らが来やがった。
 逃げるぞ、なのは」

「と、とりあえず……ごめんなさーい!」

再びスクーターに跨り、全力で逃走を開始する銀時達なのであった。



「……ここまで来りゃ、さすがに大丈夫だろ」

近所の小さな公園までやってきたところで、ようやく一息つく。
ちなみになのはは魔法を解除したため、先程まで着ていた普段着になっている。

「……すみません」

「え……?」

「あなたを……あなた達を、巻き込んでしまいました…」

申し訳なさそうに頭を下げるフェレット。
しかしなのはは、気にしなくてもいいよ、と笑顔を見せる。

「……あなたじゃなくて、なのは。高町なのはだよ。
 あなたのお名前は?」

「……ユーノ…ユーノ・スクライアです」

「ユーノ君、かぁ。かわいい名前だね」

魔法少女と喋る小動物。
なんとも幻想的な光景であるが、銀時はそんなことには全く興味を示さず
すぐそばの大木にもたれかかって、大きなあくびをしていた。

「あ、ちょっと銀さん! 銀さんも自己紹介しないと!」

「へいへい、わーりましたよ。お嬢様。
 ……俺ァ坂田銀時。万事屋だ」

面倒くさそうに頭をかきながら喋る。
先程までの覇気はどこへやら、である。

「万事屋……?」

「こんな時代だ。仕事なんて選んでる場合じゃねーだろ。
 頼まれればなんでもやる商売やっててなァ」

聞き慣れない名前に首を傾げるユーノ。
そんな彼に、銀時は名刺を渡す。

「困ってんだろ?
 出すもん出してもらえりゃ、この俺万事屋銀さんが、なんでも解決してやんよ」



「……土方さん、こいつァ完全にクロでさァ。
 結界も張らずに居住区で魔法の使用……イカれてるとしか思えねーや」

先程まで銀時達が戦っていた場所には、複数台のパトカーが止まっていた。
魔力計測器を片手に、淡々と捜査を進める総悟。
そのすぐ横では、真選組副局長――土方十四郎が不快そうに煙草をくゆらせていた。

「術式は?」

「調査班の話じゃ"ミッド式"だそうで……。
 こりゃァ"管理外"の連中に知れたら厄介ですゼ」

その言葉を聞いて、十四郎は眉間にしわを寄せた。
ただでさえ怖い顔なのに、これ以上怖くするのは勘弁して欲しいものである。

「チッ……よりにもよって"管理局"のお膝元の連中かよ…。
 アイツら嫌いなんだよなァ。見つけ次第、バッサリいっちまうか」

「やれやれ、土方さんは二言目には『斬る』で困りまさァ」

腰に刺した刀に手をかける十四郎。
そんな彼を止めようともせず、総悟はただかぶりを振るだけなのであった。